エンジニアじゃない私が自分でアプリを作ってみた話

目次

はじめに ―― なぜ私がアプリを作ることになったか

Webディレクターとして20年以上、クライアントのWebサイトやアプリをつくる仕事をしてきました。

要件定義も、画面構成も、仕様書も、自分でつくれます。「こういうサービスがあったらいいな」という構想を、具体的な形に落とし込む作業は得意です。でも、ずっとできないことがありました。デザインをつくること、そしてそれをプログラミングすること。

だから、「自分自身のために作りたいサービス」が頭にあっても、それをアプリという形にすることは、これまでできませんでした。自分でできるのは「設計まで」。実現するには、エンジニアやデザイナーに依頼するしかなかった。

それが、自分の手でアプリをリリースすることになるとは思っていませんでした。

きっかけは着物です。

2024年1月、着付け教室に通い始めました。最初は「たまに着られたらいいな」くらいの気持ちだったのに、気づいたら和装検定師範の資格まで取得して、人への着付けもできるようになっていました。着物の世界に、すっかりはまってしまいました。

着物生活を続けるうちに、やりたいことがでてきました。

タンスの中に何があるか把握できない。コーディネートを考えるとき、どの帯と合わせたか記憶が曖昧になる。「今日の茶会、何を着ていこう」と迷ったとき、誰かに相談したくなる。

着物の写真を登録して管理する。コーディネートを記録して見返せる。迷ったらAIに相談できる。この3つが全部できるアプリが、なかったんです。

「……自分でつくるか」

ディレクター歴20年の頭の中で、なぜかその選択肢が浮かびました。コードは書けないのに。

 作ったもの ――「きもの日和」の紹介

こうして生まれたのが、iOS向けの着物コーディネートアプリ「きもの日和」です。一言で言うと、「着物好きのための、着物生活をまるごとサポートするアプリ」。主な機能は6つです。

① 私の箪笥(クローゼット管理) 着物・帯・帯揚げ・帯締め・半衿・草履・バッグなど、手持ちのアイテムを写真付きで登録できます。産地・季節・格・タグで整理できるので、「あの着物、どこにしまったっけ」がなくなります。

② コーディネート作成 登録したアイテムを重ねるだけで、平置きスタイルのコーディネートが完成します。エンジニアに説明するのが難しくて、一番こだわった機能です。

③ AIコーデ提案 「お出かけ」「茶道」「フォーマル」などシーンを選ぶだけで、手持ちのアイテムから3パターンのコーディネートをAIが提案してくれます。迷ったときの相棒です。

④ 着物日記 着用した日の写真・場所・思い出を記録できます。タイムラインとカレンダーで振り返れて、和風月名や二十四節気も表示されます。

⑤ 着物店舗検索 全国47都道府県の着物店舗を収録。旅先でも使えます。

⑥ 今日のきもの日和 現在地の天気・気温・降水確率を表示。今日何を着るか選ぶ参考になります。

App Storeで無料公開しています。

正直に書く ―― 私の技術レベル

「非エンジニアが作った」と書くと、「どのくらい非エンジニアなの?」と思われると思うので、正直に書きます。

マークアップはできます。HTML・CSSで静的なページを書くことや、Web制作を始めた頃はWordPressやMovable Typeの組み込みも自分でやっていました。ただ、アプリをつくるようなプログラミング言語は書けません。デザインツールは使えますが、それをコードに落とし込む作業も別の話です。

一方で、Webディレクターとして20年以上、こういう仕事をしてきました。

  • クライアントの要望をヒアリングして、仕様に落とし込む
  • 制作チームを仕切り、プロジェクトを最後まで導く
  • テストチームと一緒に動作確認をして、修正を指示する
  • 「何が必要か」を整理して、関係者に伝わる形にまとめる

アプリを作ってみて気づいたのは、AIと一緒に開発するとき、この力が一番効くということでした。

コードは書けなくていい。でも「何を作りたいか」を正確に伝えられないと、AIも動けない。クライアントの要望を仕様に落とす作業も、チームを動かすためのコミュニケーションも、構造としてはまったく同じでした。

ただ、相手がAIになったことで変わったこともありました。それは次のセクションで。

開発の進め方 ―― AIを相方にするとはどういうことか

使ったのは主にこの3つです。

  • Flutter:iOSとWebを、ひとつのコードで同時に作れるフレームワーク
  • Firebase:ログイン・データ保存・画像保存などをまとめて担うGoogleのサービス
  • Claude Code:Anthropicが提供するAIコーディングアシスタント。ターミナル上で動くツールで、日本語で指示を書くとコードを生成・修正してくれます。実質的な開発パートナーです。

何で作ればいいかもわからなかったので、まずClaudeに相談しました。「iOSアプリを作りたい、着物の写真を管理してコーディネートを記録できるものを」と伝えたところ、FlutterとFirebaseの組み合わせを提案されました。技術選定もAIに聞く、という始まり方でした。

コードはどう作ったか

実際の開発の流れはこうです。

① やりたいことを日本語で書く 「着物アイテムを写真付きで登録できる画面を作りたい。カテゴリは着物・帯・帯揚げ・帯締め・草履・バッグ」といった形で、仕様をテキストに書きます。ここはまさにディレクターの仕事です。

② Claudeに実装してもらう 書いた仕様をClaude(以降こう呼びます)に渡すと、コードを書いてくれます。

③ 動かして確認する 受け取ったコードをアプリに反映して、実際に触って確認します。「ここが違う」「この動きにしたい」をまた日本語で伝え、修正してもらって、また確認する。この繰り返しです。

④ エラーが出たらそのままAIに投げる 動かなかったとき、エラーメッセージが画面に表示されます。そのテキストをそのままコピーしてClaudeに渡すと、原因と対処法を教えてくれます。

振り返ると、クライアントの要望をヒアリングして仕様に落とし、制作チームに渡して確認して修正して…という、ふだんのプロジェクト進行とほぼ同じでした。違ったのは、時間を選ばず、何度でも聞き直せること。「もう一回説明して」「やっぱり変えたい」を気兼ねなく言えるので、遠慮がいらない分、思った以上にはかどりました。

デザインと画像はどう作ったか

コードと同じくらい、デザインにも試行錯誤しました。

Google StitchやFigma AIも試しましたが、なかなかイメージに近いものが出てこず。最終的にclaude.designを使ったところ、方向性が決まりました。

ただし、アプリ内で使う画像の生成はClaudeでは対応できないため、ChatGPTGeminiを使いました。AIといっても、得意不得意があるので、目的に合わせて使い分けています。

タイムライン ―― 2ヶ月でリリースまでの実録

2026年3月:構想・準備

まず要件定義と画面構成をまとめました。ここはディレクターとして慣れた作業なので、スムーズに進みました。

ただ、開発環境の準備でいきなり苦戦しました。Claude Codeを使うためにターミナルを開くところから始まるのですが、エンジニアが当たり前のようにやっていることが、私にはわかりません。プラグインの導入、CLAUDE.mdファイルの作成(Claudeにプロジェクトの情報を伝えるための設定ファイルです)、環境変数の設定……。「え、これって何?」の連続でした。

開発に入る前の準備だけで、かなりの時間を使いました。

2026年4月:本格開発スタート

Flutterの環境構築から始まり、ログイン・アイテム登録・コーディネート作成・日記・店舗検索・AI提案と、ひとつずつ機能を実装していきました。毎日Claudeと会話しながら進める日々です。

エラーとの格闘も多かったですが、それとは別に「Claudeが間違っていること」もありました。

たとえば、アプリ内の写真が暗くなってしまう問題。画像が何度も再ダウンロードされてしまう問題。どちらもClaudeが実装したコードに原因がありましたが、それを「おかしい」と気づけたのは、実際に触って確認し続けていたからです。

テストをして、違和感を言語化して、Claudeに伝えて直してもらう。この流れはまさにディレクターとしてこれまでやってきたことで、経験が活きたと感じた部分でもありました。

2026年5月:仕上げ・申請・リリース

デザインの調整、動作確認、App Store申請用の文章やスクリーンショットの準備。Apple審査を通過して、5月下旬にリリースしました。

3月から数えると約3ヶ月、本格的に作り始めた4月からは約2ヶ月でのリリースでした。

壁と乗り越え方

意外とてこずった実機テスト

開発中、想定外に手こずったのがテストの方法でした。

実機(iPhoneの実物)をパソコンにつないでテストする方法をまず試しましたが、うまくいかないことが多く。APIキーをどこに保管すればいいかわからず行き詰まることもありました。

最終的に行き着いたのがTestFlight(Appleが提供するアプリのテスト配信サービス)でした。実機で本番に近い状態のアプリを触れるので、自分にはこれが一番やりやすかったです。

Apple審査に出すまでの準備

Apple審査自体は、一回目で通りました。

ただ、審査に出すまでの準備に手間取りました。Apple Developer Program(年会費制のデベロッパー登録)に加入するためにDUNS番号の取得が必要で、App Store Connectでの設定も初めてのことばかり。審査に出す前の段階が、実は一番「何をすればいいんだろう」となった時間でした。

逆に、「あ、これ私にもできる」と感じた瞬間もありました。

Claudeが間違えたコードを、テストしていて自分で気づけたとき。「仕様を決める」「確認する」「言語化して伝える」——ディレクターとしてやってきたことが、そのまま通用すると気づいた瞬間でした。

ディレクターの視点から見えたこと

作り終えて、改めて思うことがあります。

AIと一緒に開発する流れは、ディレクターがエンジニアと仕事をする流れとほぼ同じでした。やりたいことを言語化して、渡して、確認して、フィードバックする。この繰り返しです。

違うのは、「伝え方がそのまま品質に直結する」ということでした。

エンジニアに依頼するときは、多少あいまいでも経験や文脈で補ってもらえることがあります。AIはそれができません。あいまいに伝えると、あいまいなものが返ってきます。仕様を丁寧に言語化する力が、そのままアプリの完成度に影響しました。

自分でFlutterやFirebaseを触ったことで、「これがどれくらい大変なのか」の感覚が以前よりつかめるようになりました。エンジニアが「それは難しい」と言うとき、前より少しだけ具体的に想像できるようになった気がします。

同時に、わからないことはまだたくさんあります。

コードの中身を読んで理解する、ということは今もできません。Claudeが書いてくれたコードが「なぜ動くのか」を説明できない部分も多いです。「作れた」と「わかっている」は、別の話だと思っています。

デザインも同じです。AIにデザインを出してもらうことはできますが、「これでいいか」を判断する目は別に必要で、そこは結局自分の感覚頼みでした。作り終えて改めて、デザイナーの目というのは簡単には代替できないと感じています。

おわりに

リリースしたとき、素直に「やった」と思いました。

AIが書いたコードでも、自分の意志で設計して、自分の言葉で伝えて、自分の手でApp Storeに出した。それは紛れもなく、自分が作ったアプリです。

ずっと「設計まで」しかできなかった自分が、0から1を作りきった。その事実が、何より大きかったです。

これまでクライアントのために積み上げてきた経験が、自分のプロダクトを生み出すことに使えた。そのことが、作り終えて一番嬉しかったことかもしれません。

きもの日和は、これからも育てていくつもりです。よかったら使ってみてください。

補足:使ったツールとコストについて

使ったツール一覧

カテゴリツール・サービス用途
開発言語・フレームワークFlutteriOSとWebを同時に作れる
開発環境XcodeiOSアプリのビルド
AIアシスタントClaude Codeコードを書いてもらう相方
ログイン機能Firebase AuthenticationGoogle・Appleログイン
データベースCloud Firestoreアイテム・日記・コーデの保存
画像保存Firebase Storage写真データの保存
AIコーデ提案の中継Firebase FunctionsAPIキーを安全に隠す橋渡し役
AIコーデ提案の本体Claude API(Haiku)AIが提案文を生成
天気表示Open Meteo API無料の天気API
広告Google AdMobバナー広告(収益化)
デザインclaude.designUIデザインの方向性決め
画像生成ChatGPT / Geminiアプリ内画像の生成

かかったコスト概算

項目金額備考
Apple Developer Program¥12,800/年App Storeに出すために必須
Firebaseほぼ無料無料枠内で収まる
Claude API数円〜/回AI提案1回ごとに課金
天気API(Open Meteo)無料
Flutter・Xcode無料
Claude CodeProプラン(月額)

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